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平常時の備え
地域防災計画(原子力災害対策編)などで、情報伝達に関する責任者や実施者が定められています。また、必要な設備を整備し、迅速かつ正確な情報伝達のしくみを構築することになっています。緊急時の通報連絡体制や緊急時モニタリング結果の解釈の仕方、避難経路・場所、医療機関の場所、防災活動の手順などの住民の避難に関する情報は、事前に住民に対して十分に周知を図ることとしています。
住民は原子力災害に備え、避難指示などが伝えられる手段や避難経路・場所などの情報を平時から確認しておくことが大切です。
住民の被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)は、モニタリングポストなどで測定された大気中の放射線量などにより判断されます。緊急時に判断するためには、その地域での普段のモニタリング結果(空間放射線量)を知っておく必要があり、その空間線量と比較して判断する必要があります。
空間放射線量は、天候によっても異なるため注意が必要です。例えば、平時でも雨が降ると放射線量が高くなります。これは、大気中に存在する天然の放射性物質が雨で地表に落ち、この放射性物質が地表面に集められたことで、一時的に放射線量が高くなります。また、雪が積もると地表面からの放射線が遮られ、空間放射線量が低くなるため、天候によっても空間放射線量は変動します。このように、普段の天候なども踏まえた空間放射線量を知っておくことは、災害時に重要な判断をするための備えに繋がります。
■平常時の放射線量で確認すべきこと
出典:エネ百科「原子力防災シミュレーション」
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原子力災害時の住民の行動
自然災害と連動して原子力災害が発生した際は、まず、地震、津波、火災などの自然災害から身に迫る危険を回避することが重要です。その災害の情報を知り、危険の大きさを判断し、身の安全を確保します。そのうえで、原子力災害の規模や危険性に関する情報を得て、屋内退避や避難などの行動に移ります。
情報は、テレビやラジオ、インターネット、緊急速報メール、防災行政無線、広報車などを用いて住民へ繰り返し提供されます。一つの情報源に頼るのではなく、複数の情報源をチェックし、特に地方公共団体からの情報を確認することが大切です。
■避難先への避難イメージ
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
■原子力災害時の住民の行動
屋内退避
壁や屋根などの遮へい物で外部被ばくを防ぐ効果と、放射性物質からの距離をとることで内部被ばくと汚染を防ぐ効果がある防護措置です。
原子力発電所の事故により放射性物質が放出された場合など、屋外で行動する方が被ばくの危険性が高まるおそれがあります。まずは、建物の気密性や遮へい効果によって放射線の影響を減らすことができる屋内退避をすることが大切です。自宅や最寄りの適切な施設に屋内退避することにより、避難時の混乱や事故を防ぐことにも繋がります。
また、PAZの住民のうち、長距離の避難により健康リスクが高まる方については、無理に避難をせず、屋内退避をすることにより、無理な避難による犠牲者が出るのを防ぐとともに、効果的に被ばくの低減を図ることができます。
避難
車やバスなどで放射線の影響を受けない場所まで移動し、放射性物質から距離をとることで被ばくや汚染を避ける防護措置です。
災害の状況に応じ、住民の自家用車やバス、公共交通機関が保有する車両、船舶、ヘリコプターなどのあらゆる手段を活用することとなっています。
主要な国道や県道を中心に、基本となる経路を設定しています。さらに、自然災害などにより避難経路が使用できない事態も想定し、あらかじめ複数の避難経路を設定することにしています。
PAZおよびUPZの住民の避難先は、避難者が居住していた地域コミュニティの維持に配慮し、可能な限り地区の分散を避けるように各地方公共団体の避難計画において設定されています。
屋内退避のときの注意点
- ●ドアや窓をすべて閉める。
- ●屋外から屋内へ入るときは、手洗い、うがい、着替えをする
- ●エアコン(外気導入型)や換気扇などを止め、屋外からの空気を入れない。
- ●屋外で着ていた衣服には、放射性物質が付着している可能性があるため、衣服を着替え、ビニール袋に保管し、ほかの衣服と区別する。
- ●食品には、ふたやラップをかけ、冷蔵庫に入れる。
- ●テレビやラジオ、広報車などからの新しい情報を待ち、次の指示があるまで外出は控える。
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
避難のときの注意点
- ●避難時に携行する物を用意する。しばらく家を空けてもよいように、貴重品や日常生活に必要な物を携行する。(現金、通帳、印鑑などの貴重品、運転免許証、パスポートなどの身分証明書、着替え、懐中電灯、ラジオ、携帯電話(充電器)、薬、育児・介護用品、非常用飲料、飲料水、眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器、生理用品など)
- ●放射性物質が体に付着したり、吸い込んだりすることを防ぐ服装(レインコート、マスクなど)を身につける。
- ●近隣の住民に声をかけ、できるだけまとまって避難する。
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
ワンポイント情報
◆戦時下での放射線防護啓発活動(ウクライナからのメッセージ)◆
2022年2月末、ロシア軍のウクライナ侵攻により、3月初めにはザポリージャ原子力発電所が占拠され、ウクライナでは安定ヨウ素剤配布が問題になりました。パニックの最初の波は数週間メディアを席巻。5月に医薬品メーカーは、十分な安定ヨウ素剤を生産することを発表し、8月末には、EUから600万回分の提供があり、服用に関する注意事項が記載された小冊子と共に全国民に配布されました。
ザポリージャ原子力発電所は冷温停止中ですが、未だにロシア軍によって占拠されています。外部からの電力供給が砲撃により中断され、冷温停止状態継続が不安定の中、10月末ロシアの戦略核戦力部隊が演習を行い、核攻撃にも備えなければならない状況となりました。11月の砲撃により、ウクライナすべての原子力発電所は電力網から切断されました。ウクライナ侵攻開始以降で初めて、全土で完全な停電となり、国民は暗くて寒い冬を支え合いながら戦い、生き残る準備をしています。
このような状況の中、放射線防護啓発活動は困難を極めています。原子力発電所に異常があった場合の対処の仕方、核攻撃時の住民の対処の仕方は基本的に同じです。最も重要なことは、平常時に住民が放射線情報を自ら入手して、パニックにならずに屋内退避や避難などができるように準備しておくことです。東電福島第一原子力発電所事故から12年が経過しようとしていますが、日本の原子力災害における備えは十分でしょうか?今後も友人を通じてウクライナで起こっていることをできる限り伝えていきたいと思います。
ウクライナ国立学士院・原子力発電所安全問題研究所 オレナ・パレニューク(5章監修者安田訳)