温室効果ガスの排出量を低減する「脱炭素化」に向け、さまざまなエネルギー分野で、イノベーションに向けた技術開発が進められています。原子力分野でも脱炭素化の選択肢として、世界各国において、革新的な原子力技術への挑戦が繰り広げられています。安全性の向上、再生可能エネルギーとの共存や、水素の製造、熱エネルギーの利用といった多様なニーズに応える原子力技術のイノベーションが進められています。
日本で開発が進む革新的な原子力技術
◆高速炉
高速炉は、核燃料サイクルによって期待される、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減、資源の有効利用の効果をより高めることができます。
日本では、1963年頃から高速炉の本格的な設計研究がスタートし、1977年には実験炉「常陽」、1994年には原型炉「もんじゅ」が臨界を達成しました。その後、「もんじゅ」に関しては、2016年12月の原子力関係閣僚会議で、廃止措置への移行となりましたが、同会議にて、日本における今後の高速炉開発の方向性を示す「高速炉開発の方針」も決定され、将来の実用化を目指し、開発を進めていくこととしています。
◆小型モジュール炉(SMR、Small Modular Reactor)
原子炉が小型のため自然冷却が可能となり、安全性が強化されます。また、ほとんどを工場で組み立てることができるため、工期短縮や建設コスト削減が可能です。さらに、大規模なインフラ整備が不要で、需要規模の小さい地域や未開発地、寒冷地、僻地、離島などでの利用にも適しています。
開発については、アメリカが10年ほど先行していますが、近年、日本企業の研究開発も活発化しています。日本でも2019年から、「NEXIP(Nuclear Energy× Innovation Promotion)イニシアチブ※」の下で、民間企業などによる革新的な原子力技術開発の支援を始めています。
※文部科学省と経済産業省が行う事業で、原子力技術を開発する民間企業などを支援している。
◆高温ガス炉
炉心の主な構成材にセラミック材料を用い、核分裂で生じた熱を外に取り出すための冷却材に化学的に不活性なヘリウムガスを用いた原子炉であり、原理的に炉心溶融事故のおそれがありません。1000℃程度の熱を取り出すことができ、水素製造などの熱利用に加え、ヘリウムガスタービンにより、45%以上の効率で発電もできます。
日本では核熱の多目的利用を目標に、日本原子力研究開発機構において1969年より研究・開発が進められ、高温工学試験研究炉「HTTR」が建設されました。新規制基準対応にともない10年以上、運転を停止していましたが、2021年7月30日に運転を再開しました。
◆核融合炉
重水素や三重水素のような軽い原子核を融合させ、別の重い原子核になるときに発生する大きなエネルギー(核融合エネルギー)を取り出すシステムです。燃料のもとになる重水素とリチウムは海水中に広く存在するため、エネルギーの安定供給が可能です。また、核融合で発生する放射性廃棄物は低レベル放射性廃棄物として、管理することができます。
現在、核融合炉の実現に向けて、国際共同プロジェクト「ITER計画※」が進められています。2025年の実験炉の運転開始を目指し、日本・アメリカ・ロシア・韓国・中国・インドの6か国と欧州によって進められています。
※平和目的のための核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証するために、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト
海外での原子力技術開発の動向
アメリカ
ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」の実証炉の建設計画を進めており、日立GEニュークリア・エナジー(株)と共同で開発しています。
写真提供:TerraPower
フランス
原子力・代替エネルギー庁、フランス電力会社、小型炉専門開発企業TechnicAtome社および政府系造船企業NavalGroupが、同国で50年以上の経験が蓄積されたPWR技術をベースにしたSMR「NUWARD」を開発しています。
中国
国家能源局(NEA)の指導の下、さまざまな機関が高速炉、高温ガス炉、超臨界圧水冷却炉、SMRなど、幅広い炉型にわたる開発に取り組んでいます。
革新炉のロードマップについて
日本では革新炉(革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉など)の検討が、経済産業省資源エネルギー庁の革新炉ワーキンググループで議論されています。海外の動向やカーボンニュートラル・エネルギー安全保障を巡る環境変化も踏まえ、原子力イノベーションを通じて、再生可能エネルギーとの共存、水素社会への貢献といった、原子力の新たな社会的価値を再定義した上で、国内の炉型開発に係る課題を整理しつつ、その戦略を示した革新炉開発の技術ロードマップが検討されました。各炉の導入に向けた技術ロードマップのほか、下の「原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略」が示されています。
※事業者の立地・事業計画により変更あり。
出典:資源エネルギー庁資料より作成