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原子力発電のメリットと課題

原子力のメリットは、発電時に温室効果ガスを出さず、準国産エネルギーとして安定供給できることです。また、再生可能エネルギーなどの気象条件に左右される変動電源が増えれば、需給調整のための火力発電や揚水発電のコストが高まります。こうした電源を電力システムに受け入れるコストを「統合コスト」と呼びますが、原子力発電は、発電するためのコストと統合コストがともに低い特徴があります。
原子力の課題としては、これまでに発生した原子力施設の事故などによる社会的な信頼回復、高レベル放射性廃棄物処分などへの対処、原子力発電を活用するための人材・技術・産業基盤の維持、強化などがあります。

原子力のメリットと課題

1. 原子力のメリット

  • ・発電時に温室効果ガスを排出しない
  • ・気象条件などによる発電電力量の変動がない
  • ・凖国産エネルギー源として、安定供給できる
  • ・発電コストと統合コストがともに低い

2. 原子力の課題

  • ・社会的信頼の回復
  • ・安全性向上、核セキュリティの追求
  • ・廃炉や放射性廃棄物処分などのバックエンド問題への対処
  • ・エネルギー源として原子力の活用を継続するための高いレベルの原子力人材・技術・産業基盤の維持、強化

※原子力発電は、一度輸入すれば核燃料サイクルにより長く使用できること、発電コストに占める燃料費の割合が小さいことなどから、「準国産エネルギー」と位置付けられています。

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安定的な燃料の供給

原子力発電の燃料になるウランも、石油や石炭、天然ガスなどと同様に海外から輸入されています。ウランは、石油や天然ガスにみられるような中東などの特定地域への偏在がなく、世界各地に分布しています。
日本では、長期にわたってウランを安定して確保できるよう、供給国の多様化を図るとともに、それぞれの供給国と長期契約を結んでいます。
また、ウランはエネルギー密度が高く、同じ量の電気をつくるために必要な燃料が、石油や石炭、天然ガスなどに比べて桁違いに少ない量で済みます。このため、輸送や貯蔵が便利であるという特徴もあります。
2022年3月末現在、日本では、国家備蓄と民間備蓄などで236日分の石油が備蓄されています。また、天然ガスは備蓄を保持していくことが難しいため、供給が途絶えることがないようにする必要があります。これに対し、原子力発電所では、ウラン燃料を一度、原子炉の中へ入れると、1年間以上は燃料を取り替えずに発電できるので、その期間は燃料を備蓄しているのと同じような効果があります。
このように原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで電力の生産を維持することができます。

ウラン資源の埋蔵量(2019年1月現在)

ウラン資源の埋蔵量(2019年1月現在)

(注)四捨五入の関係で合計値が合わない場合がある

出典:NEA-IAEA「Uranium 2020」より作成

関連情報(詳細):エネ百科「原子力・エネルギー図面集」

優れた効率性と安定供給性

優れた安定供給性と効率性
  • ※1 2016年電力中央研究所「原子燃料の潜在的備蓄効果」より
  • ※2 2020年JOGMEC「天然ガス・LNG在庫動向」より算出
    (ガス発電用在庫に加え、都市ガス用在庫も含む)
  • ※3 資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」より算出
    (電力会社の発電用在庫に加え、運輸用燃料なども含む)
  • ※4 資源エネルギー庁「電力調査統計」2019年度火力発電燃料実績(年度末貯蔵量)より算出

出典:資源エネルギー庁資料

関連情報(詳細):エネ百科「原子力・エネルギー図面集」

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地球温暖化抑制に優れた電源

地球温暖化の原因といわれる温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)やメタン、亜酸化窒素(N2O)などがあり、日本で排出される温室効果ガスの90%以上がCO2となっています。CO2は、主に石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで発生します。
化石燃料を使う火力発電は、発電の過程でCO2を排出します。一方で、ウラン燃料の核分裂で発生した熱エネルギーを利用する原子力発電は、発電の過程でCO2を排出しません。
原材料の採掘や輸送、発電所の建設・運転などに消費されるエネルギーを含めても、原子力発電によって排出されるCO2は、太陽光発電や風力発電と同様に少なく、地球温暖化防止の観点で優れた発電方法の一つです。

サイト内ページ:各電源の特徴

各種電源別のライフサイクルCO2排出量※1

〈沸騰水型炉(BWR)〉
  • ※1 発電燃料の燃焼に加え、原料の採掘から発電設備などの建設・燃料輸送・精製・運用・保守などのために消費されるすべてのエネルギーを対象としてCO2排出量を算出
  • ※2 原子力については、現在計画中の使用済燃料国内再処理・プルサーマル利用(1回リサイクルを前提)・高レベル放射性廃棄物処分・発電所廃炉などを含めて算出したBWR(19g-CO2/kWh)とPWR(20g-CO2/kWh)の結果を設備容量に基づき平均

出典:(一財)電力中央研究所「日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価 2016年7月」より作成

根拠データ:(一財)電力中央研究所「日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価 2016年7月」

関連情報(詳細):エネ百科「原子力・エネルギー図面集」

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他の電源と遜色のない経済性

2021年9月、国の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で、2030年に新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh(キロワットアワー)当たりのコストが一定の前提で機械的に試算されました。原子力の発電コストの試算は、設備や運転の維持費、燃料費などの発電原価だけでなく、廃炉や放射性廃棄物の処分を含む核燃料サイクルの費用など、将来発生するコストが含まれています。さらに、損害賠償や除染を含む事故時の対応や電源立地地域対策交付金や研究開発費などの経費も織り込まれています。
2030年エネルギーミックスが達成された状態から、さらに各電源を微少追加した場合に、電力システム全体に追加で生じるコストを計算し、便宜的に、追加した電源で割り戻してkWh当たりのコストを算出すると、原子力の発電コストは、1kWh当たり14.5円となっています。これは、事業用太陽光の19.9円、陸上風力の18.9円、LNG火力の10.3円、石炭火力の13.7円など、ほかの電源と比べても遜色のない水準です。
なお、原子力発電は、発電コストに占める燃料費の割合が、火力発電より小さく、燃料価格の変動による影響を受けにくいという特徴をもっています。

サイト内ページ:各電源の特徴

各電源の発電コスト

各電源の発電コスト

出典:資源エネルギー庁資料より作成

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原子力施設の事故の影響

これまでに発生した主な原子力施設の事故には、1979年のアメリカ・スリーマイル島原子力発電所の事故や1986年の旧ソ連・チョルノービリ原子力発電所の事故、1999年の日本のJCOウラン燃料加工施設の臨界事故、そして、2011年の福島第一原子力発電所の事故などがあります。
これらの事故は、健康や環境、社会的および経済的な影響を及ぼしました。健康への影響とは、被ばくにより国民の生命、健康が損なわれることです。環境への影響とは、放射性物質の放出によって土壌や海洋などが放射性物質で汚染されることです。社会的な影響とは、被ばくを低減するために住民などが避難を余儀なくされることや、放射線による健康影響に対して不安を感じること、農畜産物などの風評被害が発生することです。また、経済的影響とは、放射性物質を除去する除染や損害賠償などで多額の費用がかかることです。
福島第一原子力発電所の事故では、このなかでも社会的、経済的な影響の大きさが衝撃を与えました。

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