原子力文化2017年7月号 インタビュー(抜粋)

知らないことを知るために
― 地上に降りた宇宙飛行士の発見 ―

アジア初の女性宇宙飛行士として2回の宇宙飛行の経験を持つ向井さん。
今後、人類が宇宙で長期滞在していくためには、宇宙で飛び交う宇宙放射線の研究がキーポイントとなるそうです。
現在は、東京理科大学の副学長として、宇宙に興味を持つ学生たちを対象に宇宙教育プログラムを実施している向井さんに、なぜ宇宙に行くのか、宇宙で行なわれている研究と課題、宇宙から地球に帰還してわかったことについて、お話を伺いました。

東京理科大学副学長
向井 千秋  氏 (むかい・ちあき)

群馬県生まれ。外科医、日本初の女性宇宙飛行士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院で外科医として勤務していたが、83年旧宇宙開発事業団(現JAXA)の宇宙飛行士募集に応募。85年毛利衛、土井隆雄らとともに選出される。94年スペースシャトル・コロンビア号、98年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗した。2015年より現職。日本学術会議副会長も務めている。

―― 今日、小学生の娘に向井さんにお会いすると言ったら、ぜひ聞いてきてほしいという質問がありました。宇宙に行くためには大変なトレーニングや勉強が必要ですね。なぜ宇宙に行くと決めたのでしょうか。

お子さんに是非伝えてください。「知らないところに行ってみたくない?例えば、滝が流れていたら、滝のしぶきがかかってもいいから、滝壺の近くに行ってみたいと思わない?」
砂漠に行く人や山に登る人もいれば、寒い中、北極圏やオーロラを観に行く人もいます。人は今まで自分がやったことがないことをやってみたい、見たことがないものを見てみたいと思う生き物なのです。
例えば、行ったことがない遊園地に行ってみたい、日本で一番長い滑り台で滑ってみたい、会ったことがない人と会って話をしたい、食べたことがないものを食べてみて、「ああ、こういうものだ」と、人はそれぞれ経験を積みながら大きくなっていきます。
国であれば、アメリカやヨーロッパに行ってみたい、そういったものの一つの流れとして、地球という環境から外の世界である宇宙に行ってみたいと思う。
それは「まだ見たことのないところに行きたい、知らないことを知りたい」という気持ちが根源にあるからです。
例えば、遊園地に行くときも、入園料はいくらで、何時に開いて、何時までやっているのか、そういうことを事前に調べますね。あるいは山に行くなら、1日で登れるのか、泊まりが必要なのかによって、リュックサックの中身が違います。お弁当を1食分持っていけばいいかもしれないし、泊まるのだったら2泊分下着を持っていったり、雨が降るのに備えて必要な装具を持参する。
同じように宇宙に行きたいと思ったら、人の身体が宇宙やロケットの中でどうなるかを事前に調べて、準備をして行かなければなりません。
その準備が訓練や、勉強なのです。


―― 「何のために勉強するの?」という疑問にもつながりますね。

目的があれば何のために勉強するかは明確ですね。
サッカー選手になってスペインのチームに入りたいと思ったら、「スペイン語ができたほうがいい」、「サッカー選手になるにはサッカーをたくさん練習しなきゃ」となると、今やっている勉強や運動に目的がある。
自分が何かなりたいと思ったり、こうしたいという目的があると、「じゃあ、それをやるためにはどういうことが必要なのかな」と考えます。
宇宙飛行も、宇宙ステーションを組み立てる飛行士もいれば、私たちのように科学研究をやる飛行士、パイロットなど、いろいろな人が宇宙に行く目的があって、それがミッション、つまり使命なのです。
要するに、宇宙の知識や技術を知らないと任務が遂行できないのです。任務を遂行するために、今自分に足りないことを勉強したり、技術を身につけるのです。

 

(一部 抜粋)




2017年7月号 目次

風のように鳥のように(第91回)
まだるっこしくても/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
知らないことを知るために/向井千秋(東京理科大学副学長)

追跡原子力
世界で運転している原子力発電所は439基

中東万華鏡(第16回)
ラマダーン月について/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第55回)
空飛ぶクルマのニュースが飛び込んできました/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第56回)
寺田寅彦随想 その27/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第36回)
安全と安心:BSE全頭検査から学び考えたこと/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

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