原子力文化2017年2月号 インタビュー(抜粋)

「場のデザイン」から始まるコミュニケーション
― 理論と直感をつなげるのが私たちの役目 ―

豊洲市場の地下水の汚染濃度が話題になりました。この他にも、放射性物質や有害物質の発がんリスクが折に触れ話題になります。 日々耳にするリスク情報について、私たちはどう考えれば良いのでしょうか。また、リスクを理解するためのコミュニケーションとは何なのでしょうか。 リスクコミュニケーションをご専門とし、昨年5月に国際原子力機関(IAEA)のコンサルタントに就任したリテラジャパン代表の西澤真理子さんに、お話を伺いました。

リテラジャパン代表
西澤 真理子  氏 (にしざわ・まりこ)

東京生まれ。上智大学外国学部ドイツ語学科卒。英国ランカスター大学環境政策修士号、インペリアルカレッジ・ロンドンにて博士号を取得。シュトゥットガルト大学社会学部環境技術社会学科プロジェクトリーダーなどを経て2006年より現職。専門はリスク政策とリスクコミュニケーション。現在、東京工業大学、筑波大学非常勤講師。日本学術会議連携委員。さらに、厚生労働省、文部科学省、総務省など多くの政府関連委員を務める。

―― IAEAのコンサルタントに昨年就任されたそうですが。

原子力発電所事故に関わるパブリックコミュニケーションには、平時、緊急時、緊急時から平時に移行する時期など、いくつかの段階がありますが、これについてIAEA加盟国が利用できる新しいマニュアルをつくりたいということで、作業が始まりました。
マニュアルづくりにおいて非常に重要なポイントは、平時に何をしておくかということです。有事のときには全く準備ができません。例えば有事のときの最初の声明、プレスに出すものの雛形など、そういうものを細かくつくっていくことで、より実際に利用しやすくなると思います。
具体的にどういう作業をするかというと、まず草案(ドラフト)をつくるのです。6人〜7人程度の専門家グループがドラフトをつくり、それから加盟国の参加する委員会で内容を検討していきます。ですが、すぐにオーケーということはありません。表現など細かなところの修正もありますし、ドラフトをつくるだけで半年かかるのです。
しかし、最初のドラフトをつくるところが一番大変です。ですから、ドラフトをさらに精査して作成するレポートまでとなると年単位です。

―― 西澤さんがIAEAに関わることになったきっかけは。

IAEAに関わるのは今回初めてです。東京工業大学とIAEAが合同で開催したシンポジウムにおいて、私が英語で講演していたのを聞いたIAEAの方に、直接声をかけて頂いたのです。

―― ドラフトをつくられている方たちはどのような方なのでしょうか。

各国の規制機関のコミュニケーション担当の方々などです。日本人は私だけです。

―― 日本人はお一人とのことですが。

IAEAとしては日本の福島第一原子力発電所事故の経験を入れたいのです。もちろん過去にチェルノブイリの事故がありますが、チェルノブイリは30年前で、旧ソ連のあった時代ですから、世界において福島の事故とは全く認識が違います。
福島第一原子力発電所事故の日本の経験を、何とか今後のIAEAの加盟国の使うマニュアルに活かしたい、ということです。

(一部 抜粋)




2017年2月号 目次

風のように鳥のように(第86回)
開けない荷物/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
「場のデザイン」から始まるコミュニケーション/西澤真理子(リテラジャパン代表)

追跡原子力
次世代の柔軟な発想とアイデアを廃炉に生かせ

中東万華鏡(第11回)
ペルシア湾の真珠採取と日本/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第50回)
生き残るんはおっちゃんかもしれません/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第51回)
寺田寅彦随想 その22/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第31回)
異分野交流/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

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